平たく解説・公務員心理 「念のため」その9
[今回の心理場面]
上司A:あれもこれも細かく突き詰めておくように。
部下B:(こんなことで残業させられて、人件費がどうなると思ってるんだ…)
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次に、経済学における「機会費用」の概念を用いて述べてみたいと思います。
2.機会費用
人間行動においては、ある選択をしたことで得られる利益、その選択をしなかったときに得られた利益(選択をしたことで失われた利益)の比較をしながら意思決定を行っています。
そして、その選択をしなかったときに得られた利益というのが、「機会費用」というものです。
組織において何らかの対策を取るかどうか、という場面についてこの考えを当てはめてみたいと思います。
すると、何らかの対策を取ったときに防げる被害と、対策を取るのに要した費用(=機会費用)を比較しながら意思決定を行っている、となるでしょう。
この判断について、例となる題材を考えてみます。
自然災害はどうでしょうか? これならば、起こる確率は低くてもそれが起こったときの被害が大きく、その被害が対策を取ることに要する費用を超えると想定される場合が多いでしょう。こうしたケースであれば、念のためであっても対策を取るのは適切だと言えますね。
ここで、行政組織におけるそうした判断について考えてみます。すると…起こる確率が低いうえに、起こったときの被害も実害があるとは言えないものについても、感情的な気持ちで対策を取ろうとする、ということが正直なところになります。
こうした場合、起こらなかったときは対策を取るのに要した費用がそのまま無駄になるわけですが、起こったときでも実害があるとは言えないため、対策を取るのに要した費用がほとんど無駄になってしまうわけです。
そして、考えてみてほしいのですが、この対策を取るのに要した費用(=機会費用)というのは、何を指しているでしょうか…?
それは、構成員の「人件費」のことです。
つまり行政組織では、実害が生じるとは言えないものにまでいたずらに対策を取ることで、人件費という機会費用をいたずらに費やすことが多く生じているわけですね。
行政組織においては、残念ながら人件費という機会費用を軽く見る傾向があるのが明らかです。機会費用の概念が指すところの、「その対策を取らなければ他に活かすことのできた労働量」ということの感覚が薄くなっていると言わざるを得ません。
構成員の労働力が無限にあるかのような理解が取られているために、実害が生じないものへの対策であっても、機会費用を考慮せずに積極的に行われてしまうことになるわけですね。
行政組織では、機会費用という概念を整理し直すことで、それをいたずらに費やさないようにすることが望まれるところです。
次回も続けて、念のための意識、過剰な信憑性を追求する意識に対して、著者の考える改善案を述べていきたいと思います。